私は生きている・・・  ラストステージ(終焉)

参列者の誰もが、ここが葬儀場であることを、

忘れてしまうほどの錯覚に陥る不思議な空間に僕は居ました。

 

お経の代わりに流れていたハワイアンミュージックから、

妻がステージでよく歌うオペラに曲が変わり、

妻の歌声が会場内に流れ始めると・・・

 

参列者全員の手が止まり、

ステージ中央の妻の遺影を見つめていました。

 

そこは、従来の葬儀の型から外れ、

いつも妻が立っているステージと変らない、

妻のラストステージにふさわしい、見事な演出でした。

 

歌が終わると、一人、また一人と拍手が湧き、

最後には、全員の涙と拍手と歓声で、会場が揺れていました。

 

 

お別れの会も終わりに近づき、

娘が母親との思い出を語り出すと、

あちらこちらから、すすり泣く声が聞こえてきました・・・

 

すると参列者の一人が歌い出しました・・・

 

妻が声楽を教えている生徒さんです。

 

 

「私のお墓の前で泣かないでください・・・

 

 そこに私はいません  眠ってなんかいません・・・」

 

そうです。

 

秋川雅史さんの「千の風になって」です。

 

 

 私のお墓の前で 泣かないでください

 そこに私はいません

 眠ってなんかいません

 

 千の風に 千の風になって 

 あの大きな空を 吹きわたっています

 

 

 秋には光になって 畑にふりそそぐ

 冬はダイヤのように きらめく雪になる

 

 朝は鳥になって あなたを目覚めさせる

 夜は星になって あなたを見守る

 

 

 私のお墓の前で 泣かないでください

 そこに私はいません

 眠ってなんかいません

 

 千の風に 千の風になって

 あの大きな空を

 吹きわたっています・・・

 

 

全員が、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら・・・

 

 

大合唱になりました・・・

 

 

 

「きみが演出した脚本通りになったかな・・・」

 

 

 

ステージ上の妻は・・・

 

 

得意のいたずらっぽい目をして・・・

 

微笑んでいました・・・

 

 

 

 

 

こうして妻の・・・

 

本当に最後の・・・

 

 

「ラストステージ」 

 

の、幕が下りました・・・

 

 

今回は、カーテンコールはありません・・・

 

 

 

きっと、妻は・・・

 

 

 

風になって・・・