私は生きている・・・(最愛の妻を亡くして僕は鬱になりました)
癌患者にとって「転移」という二文字が、どんなに辛い治療であっても耐え抜いて、「必ず根治する」「生きる」という強い意志を、一瞬で打ち砕いてしまうことを、
妻を見ていて思いました。
一度も風邪をひいたことが無かった妻が、突然癌患者になり、たった1週間の間に
2度の大手術を受け、子宮、両卵巣、体網の全摘出、その後の抗がん剤の副作用による脱毛、吐き気、味覚障害、倦怠感などの辛く苦しい日々を、泣き言一つ言わずに耐えて・・・
本当に妻は頑張っているのです・・・
その時の妻の手記を紹介します。
<40分>
着々と準備はすすめられ、担当医のH先生から、PET検査のできる病院の紹介状を
渡された。
「PET-CT検査とは、ポジトロン・エミッション・トモグラフィーの略で、陽電子断層
投影法という、放射線を用いた検査です。癌細胞は正常細胞よりも分裂が盛んに
行われるため、たくさんのブドウ糖に似た薬を静脈から注射すると、癌の病巣に
たくさん集まります。その様子を薬PETカメラで撮影することで癌の存在の有無、
病巣の大きさが分かります。このPETとCTを一度に撮影して画像だけでは得られない
病巣の正確な部位や形状などの、詳しい情報をCT画像から得ることができ、双方の
画像の融合によって、より精度の高い診断が可能になります。」
病院の案内と共に、検査の注意事項を一読して、緊張が走った。
そこには放射線による被曝について書かれてあり、放射線医薬品を注射するので、少なからず被爆することを知った。
薬剤による被爆は、通常の生活で人間が浴びる宇宙線、紫外線などと同等なのでご安心
ください・・・ご安心・・・と記載されていても、言いようのない恐怖と共に、すごい
検査を受けることを再認識した。
2010年11月4日 私は初めて受ける検査に緊張しながら、病院に着いた。
まず血圧、血糖値を測定して、PET検査薬を注射され、薬が全身に行き渡るまで1時間ほど安静にして待ち、いよいよ撮影の時間がきた。
その検査室は、まるで冷蔵庫のようにヒンヤリしていた。
すでにジャージのような上下にガウンを羽織っていたが、それでも寒く、検査台には
布団があり、その掛け布団ごとベルトで固定されて、万歳の姿勢の手にはタオルが巻かれていた。
約40分間の撮影がスタートした。
「肺に怪しい影・・・疑惑であって欲しい・・・」と、かすかな望みを秘めながら、
検査に臨んだ。
足元から首までの撮影であった。
検査中は勿論、楽しいことを考えていた。
ハワイで闊歩している私、お洒落なレストランのオープンテラスで食事をしている私、
毎週金曜日の夜に打ち上げられるヒルトン・ハワイアン・ビレッジの花火を見上げている私、水平線の彼方に沈む夕日が全てを鮮やかなオレンジに変えていく瞬間を見ている私、そして、そんな私の隣にはいつも愛する主人がいてくれる・・・
そんなことを思い浮かべながら、ハワイに気持ちをワープさせていたので、おかげで
緊張はほぐれ、さほど時間は長く感じることなく終了した。
11月13日 PET検査の結果報告の日がやってきた。
主人と診察室に入った。
担当医のH先生から「1ミリ~4ミリの肺への転移が4カ所ありました。」と言われた。
特殊検査液を使用しての撮影だったので、画像には転移の箇所だけ、赤く映し出されていた。
現実を突きつけられたのであった。
そして今後どうしていくかの話し合いになった。
転移した癌細胞の大きさが小さすぎたので、手術での摘出は不可能であった。
選択肢は2つ。
このまま経過を見るか、再度抗がん剤による化学療法か・・・
話し合いは静かにすすんだ・・・
私は生きている・・・
(次回は < restart > です)